危険な首都圏原発・東海第2 再稼働止めるのは世論と運動(「議会と自治体」2019年8月号掲載)

危険な首都圏原発・東海第2 再稼働止めるのは世論と運動

「議会と自治体」2019年8月号掲載

茨城県議会議員 江尻 加那

はじめに

首都東京に最も近い原発、それが茨城県東海村にある東海第二原発(日本原電)です。直線距離にして東京都庁までたったの120km。放射能が放出されれば、風速毎秒6メートルとして5時間半で到達するおそれがあります。
いまや東海第二原発は「首都原発」と認知され、危険な再稼働を止めようという運動が県外にまで広がっています。

昨年5月には「とめよう!東海第二原発 首都圏連絡会」が設立され、1都7県の活動が展開されています。各地で再稼働反対の意見書可決をめざして地方議会への働きかけが行われ、これまでに茨城県で29自治体、東京都で3自治体、千葉県で6自治体、栃木県で9自治体、埼玉県で14自治体の議会で意見書が採択されました。(首都圏連絡会ホームページより)

さらに、小泉純一郎・細川護熙両元首相が顧問をつとめる「原発ゼロ・自然エネルギー推進連盟」(吉原毅会長)は6月27日に茨城県庁と県議会を訪れ、「再稼働に反対し廃炉を求める要請書」を知事と議長に提出。県庁内で行われた記者会見で、吉原会長は同原発を「世界一危険な首都原発」だとして、「無理やり再稼働させてはならないという当たり前のことを呼びかけたい」と話しました。同席した事務局次長の木村結さんは、自ら東京電力株主として「福島事故を起こした東電が他社を資金支援する資格はない、中止すべき」と東京地裁に東電社長と副社長を訴えています。

しかし、東京の街中で「一番近くにある原発は?」とたずねて「東海第二原発」と答える人がどれほどいるでしょうか。さらに世論を広げ、再稼働を許さないたたかいを続けていく決意です。

議員団連携のたたかい

その一つとして、日本共産党北関東ブロック4県(茨城・栃木・埼玉・群馬)での学習と連携をすすめています。塩川鉄也衆院議員と4県の県議が合同で学習・意見交換を行ったり、栃木県から野村せつ子県議と地方議員が東海第二原発を視察して懇談、埼玉県では広域避難計画で水戸市の避難先になっている自治体議員の学習会や行政へのアンケートが取り組まれています。また、群馬県は柏崎刈羽原発にも近く、毎年大規模な「さよなら原発アクション」が開かれ、今年の集会に東海第二原発運転差止原告人が参加して訴えました。

国会議員団との連携では、昨年9月に笠井亮・塩川鉄也・藤野保史各衆院議員、岩渕友参院議員が来県し、東海村長、那珂市長、水戸市長との懇談や市民団体メンバーと意見交換。笠井議員や藤野議員がさっそく、昨年11月、今年3・4・5月の衆院経済産業委員会でたて続けに質問し、「東海第二原発は廃炉にすべき」と国と規制委員会を追及しましたが、今後も連携した取り組みが重要です。

実効性のない避難計画 放射能放出でバス出せず

隣接県も、過酷事故が起これば自分たちの地域が放射能汚染の危険にさらされるだけでなく、茨城県民の避難受け入れをせまられます。

茨城県広域避難計画では、30キロ圏にある14市町村・94万人全員を県内に避難させるのは不可能として、そのうち約55万人を隣接5県(栃木・埼玉・群馬・福島・千葉)に避難させる計画です。避難先自治体は計131市町村にのぼり、そのすべてで協定を締結。避難所数は2,700~2,800箇所。94万人のうちマイカー避難が約81万人、マイカー避難できない住民のためのバスは約3,200台必要とされ、福祉車両も約1万3千台必要になると県は試算しています。

しかし、私たちが茨城県バス協会と懇談した際、担当者は「原発事故で放射能が放出されればバスは出せない。運転手を被ばくさせるわけにはいかない。民間では責任が取れない」と強調しました。移動手段が保障されず、計画の前提は崩れています。

避難受け入れ不可能 再稼働させないことが最大の安全対策

さらに、避難受け入れ先の自治体において、実効性のない避難計画の実態を告発することが重要です。
例えば県議団では、東海村の避難先になっている取手市で、避難訓練に使われた体育館が暑さ寒さに対応できず、国際的な「スフィア基準」や内閣府の「避難所運営ガイドライン」(2016年4月)に照らして広さもトイレもまったく不十分であり、避難所機能を果たさない事実を突き付けました。

また、水戸市から約1,800人を受け入れる埼玉県加須市では、党議員が「避難施設が狭隘で、1人当たりの面積2平方メートルは保育所設置基準の2歳児の面積と同じ。3日も避難すれば体調を崩し、病気になるおそれがある」と議会で告発しています。

これは東海第二原発に限ったことではなく、島根原発事故時の受け入れ先になっている広島県府中町議会で、二見伸吾議員が実効性の無さを鋭く暴露した報告論文(『議会と自治体』2019年5月号)は、まさにすべての受け入れ自治体に共通する課題を明らかにしたものでした。具体的事実をもって矛盾を厳しく追及する党の役割発揮が重要です。

そもそも、地震や津波との複合災害を想定した計画はいまだ形さえ見えません。そして、たとえ避難できたとしても元の暮らしに戻れないのが福島の現実です。県民の中で、再稼働しないことが最大の安全策だという世論が広まっています。

安全ゆがめた「東海モデル」 原発と住宅地が隣接

日本で一番人口密集地にある原発が東海第二原発です。その問題に都市開発の視点から警鐘を鳴らしてきた元茨城大学教授の乾康代氏は、著書『原発都市~歪められた都市開発の未来』のなかで、周辺開発規制のない原発立地を「東海モデル」と名づけ、住宅地が原発に隣接している異常な事態を生みだした背景を明らかにしています。その上で、乾氏は「住環境の基本条件である安全・健康・快適・効率のうち、一番大事なのが安全。その安全と市民の生命を脅かす原発は、絶対に再稼働させてはいけません」と訴えています。

その東海村には、もうひとつ「東海原発」があります。1966年、日本初の商業用原発として稼働し、1998年3月に停止。現在も続く廃炉作業は行き詰まりに陥っています。当初、2017年度完了の計画でしたが、今年3回目の工期延長で2030年度完了予定とされました。延期理由は、原子炉解体工事に伴い発生する放射性廃棄物を収納する容器の設計・製造などに時間がかかるためとしています。しかし、その容器を地下に埋設する処分場予定地もまったく決まっていません。

乾氏は、「最終処分するまでの貯蔵にも厳しい管理と莫大な費用負担がかかるゴミである。
地下埋設によって環境汚染がどう広がるのかもわからず、どの自治体も候補地公募に手を上げようとしないのは当然。 原発は持続可能な都市の脅威であり、終わりにしなければならない施設だ」と厳しく指摘しています。

経済的合理性も消滅した原発

東海第二原発は、1978年に運転を開始した沸騰水型原発で、40年の運転期限を超えました。日本で1970年代に運転を開始した沸騰水型原発は11基ありますが、東海第二を除く10基はすべて廃止措置が決定しています。この最も古い沸騰水型原発であり、東日本大震災で被災した原発を、あと20年延長運転してもいいと規制委員会は昨年11月に認めてしまったのです。

再稼働のための対策工事には1,740億円かかるとしています。当初430億円が780億円になり、1,740億円になり、テロ対策施設(特定重大事故等対処施設)の設置を含めると3,000億円にふくらむとされています。しかし、日本原電にはそれだけの自己資金がありません。そこで、東電などが支援の意向を書面で提出。それをもって、規制委員会は日本原電に経理的基礎があるとして審査を通してしまいました。

ところが、東電は資金協力について、「意向を表明しただけで、当社はなんら決定しておりません」との立場をいまも取り続けています。

ですから、日本原電が行った今年の住民説明会で「担保されていないんじゃないか」、「事故が起きたとき賠償能力があるのか」と批判や不信があちこちで出されたのは当然のことです。自力で安全対策ができないほど財務基盤が弱まった企業に、再稼働を認める国こそ正されなければなりません。

事前了解を拡大させた「茨城方式」

東海第二原発の再稼働をめぐって注目されているのが「茨城方式」と言われる安全協定です。これまでの安全協定では、事前了解権は茨城県と東海村に限られていました。その権限拡大を求めた周辺自治体に対し、日本原電は「実質的事前了解」を盛り込んだ新協定を締結したのです。当初、権限拡大にまったく後ろ向きだった日本原電を動かしたのは、世論と自治体の粘り強い要請であり、その大本にあるのは福島の現実です。事故が起きれば広範囲に被害が及ぶことはあきらかで、周辺に同等の権限を認めるべきだという主張は立場の違いを超えて日本原電を動かす力になりました。

新協定には、東海村、日立市、ひたちなか市、那珂市、常陸太田市、水戸市の6市村が入り、第6条の「実質的事前了解」について水戸市長は「一つの自治体でも反対すれば、再稼働できない仕組み」だとしています。肝心なのは、再稼働を止めるために協定を生かせば歯止めになる一方、その意志がなければなし崩し的な再稼働を許してしまうことです。

県都水戸市で意見書採択 保守議員も再稼働反対を公約

そして、6市村のなかで初めて、水戸市議会で意見書が採択されました。30キロ圏内にすっぽりと入る水戸市の人口は約27万人。全国の原発で県庁所在地が30キロ圏内にあるのは島根原発の松江市と、水戸市だけです。

その水戸市議会で昨年6月、「住民理解のない再稼働を認めないことを求める意見書」が賛成17人、反対2人、棄権7人の賛成多数で可決。今年4月の市議会議員選挙でも、保守系を含む多くの候補者が掲示板ポスターや選挙公報に「再稼働反対」を公約に掲げました。

同日行われた市長選挙のNHK出口調査では73%が再稼働に反対と回答。当選した現職の高橋靖水戸市長は「実効性のある避難計画ができたとしても避難生活が嫌とか、故郷を失うのは嫌という声も聞こえた。反対が多かった。真摯に受け止めないといけない」と話し、今後、大規模な市民意向調査を行っていく考えを初めて示しました。

再稼働の是非「自分で意思表明したい」

県民投票をめざす運動も始まっています。再稼働には県民の賛否を問うべきだとして、「いばらき原発県民投票の会」が今年3月、県民投票条例の制定を知事に直接請求する方針を表明。署名を集める受任者7千人、署名数14万筆を目標にしています。会の共同代表は「難しい点はあるが、署名の数、世論の高まりで可能性を切り開いていきたい」と語っています。

こうした運動の背景に、「自分で意思表明したい。原子力の専門家や政治家への不信があるのではないか」と分析しているのが、茨城大学の渋谷敦司教授です。渋谷教授は昨年12月から今年1月にかけて、東海村と30キロ圏の日立市、那珂市、ひたちなか市の4千人に対し、住民意思の確認方法などを調査。その結果、「住民投票」が37.1%、より広域の「県民投票」が24.3%。また「住民アンケート」も12.3%となり、合計で7割を超す人が直接的な意思確認を求めています。一方、「首長の判断」が5%、「議会の決定を踏まえ首長が判断」は10%にとどまりました。

同調査では、自治体の避難計画策定について、6割が「かなり難しい」と回答。再稼働についても、「耐震防潮対策を徹底するまでは再稼働すべきではない」という慎重論の28.1%を上回って、明確に「運転停止したまま廃炉」が45.9%。「早く運転再開を」としたのは8.8%でした。
渋谷教授は「合理的な判断をくだせるのは住民自身だということを、多くの人が不安や不満とともに叫んでいると感じた」としています。

すでに県民の意思は示されています。日本共産党はこうした世論と運動を力に、議会での論戦をすすめています。

大規模地震のリスク

私は、今年3月6月の県議会で、「地震が多発する茨城で地震を止める術がない以上、原発を止めるしかない」と知事に再稼働反対の決断を迫りました。

アメリカにあるスクリプス海洋研究所のグループは、学術誌『ネイチャー』(2016年3月3日)で、日本列島を横断する中央構造線が茨城県を通って日本海溝まで延びている証拠が見つかったと発表。その構造線の北側で大規模地震が多発していると指摘しています。

さらに、これとは別に、福島県からのびる棚倉構造線も茨城県沖に延びていることが茨城県自然博物館の調査報告書に示されています。

実際、6月17日に茨城県で起きた地震は、まさに東海第二原発の真下が震源で、北緯36.5度、東経140.6度。私は知事に、「東海第二原発の下に断層があるということか。県の原子力安全対策委員会等で独自検証すべき重大な事実だ」とただしました。知事は「真下に起こる地震について日本原電に評価するよう求め、説明を聴取して審議していきたい」と答えました。

いっぽう、県は「安全対策」について県民から寄せられた延べ469人・1,215件の意見と、これまでの原子力安全対策委員会ワーキングチーム会合で委員から出された疑問点206件をホームページに全文公開し、「安全性の検証作業に反映させていく」としました。規制委員会が「適合」判断を下した原発に対し、住民と委員の立場から「待った」をかける突っ込んだ検証をさせていく必要があります。

6月28日、日本原電は再稼働にむけた防潮堤整備のため「土木建築室」を発電所内に設置したと発表しました。基礎工事などの本格工事をめざすものですが、着工時期は「未定」としています。「工事実施に反対はしないが、事前了解がない段階での運転は認めない」としている知事はじめ自治体に対し、「県民多数は再稼働反対」の民意を示し続け、原発ゼロをめざす決意です。

「議会と自治体」2019年8月号(1ページのみ、PDF)