東海第2原発は民意に沿って廃炉に(「議会と自治体」2021年1月号掲載)

東海第2原発は民意に沿って廃炉に(茨城県)

共産党茨城県議 江尻かな

日本共産党中央委員会発行「議会と自治体」 第273号(2021年1月号=2020年12月発売)
「[特集]原発・気候変動・エネルギー問題の焦点(2)」掲載分

県民投票実施を求める直接請求

茨城県政史上、48年ぶり2回目となる県民の直接請求がおこなわれました。内容は、東海第2原発再稼働の賛否を問う県民投票実施を求める請求です。1回目は1972年に乳幼児医療費無料化の条例制定を求めるものでした。今回、原発発祥の地・茨城県で再稼働の賛否を問う直接請求が起きたことは画期的です。

その中心を担った「いばらき県民投票の会」は、2020年1月に寒風のなか署名集めを開始。新型コロナ感染拡大で行動が制限された時期も、一軒一軒インターホンを鳴らして住宅をまわり、スーパー前や駅頭に立ち続けました。そうして県内各地で集めた署名は最終的に8万6703筆となり、必要数約5万筆の1.78倍になりました。

県民の願いがこもった署名をもって5月、大井川和彦・茨城県知事に直接請求され、知事は6月県議会に県民投票条例案を提案しました。

いばらき県民投票の会が集めた署名を茨城県知事に提出

いばらき県民投票の会が集めた署名を茨城県知事に提出=2020年5月25日

「民意を恐れた知事と自民」

条例案に附された知事の意見は、県民投票に賛否を示さず、「再稼働の是非については、まずは、安全性の検証と実効性ある避難計画の策定に取り組み、県民に情報提供したうえで、県民や、避難計画を策定する市町村、並びに県議会の意見を伺いながら判断していくこととしているが、その意見を聴く方法については、本条例案の県民投票を含め様々な方法があることから、慎重に検討していく必要がある」というものでした。

地方自治法は意見書の添付のみを義務付けていますが、「逐条解説」(長野士郎著『逐条地方自治法・第12次改訂新版』および松本英昭著『新版 逐条地方自治法・第9次改訂版』)では「賛否の意見」でなければ意見を付けたことにならないとしています。県民投票の会も「法の趣旨に反する」と知事の姿勢を批判しました。

連日、議会に大勢の傍聴者が詰めかけるなか、共産党県議団は、議会常任委員会・連合審査会や予算特別委員会で、県民投票実施の意義と実施を求めて質問に立ち、条例可決を求めました。本会議採決の結果、賛成5人(共産2、立憲民主1、無所属2)、反対53人(自民41、国民民主5、公明4、無所属3)で否決されました。

翌日、「民意を恐れた知事と自民」と「東京新聞」が報道し、「過去の各種調査では、再稼働反対が強く出る傾向があり、投票が実施されれば、再稼働反対の民意が鮮明になる可能性が高い」と伝えました。

議会の結果を受けて、県民投票の会は次のように振り返っています。「直接請求運動を通して、原発再稼働の是非という重要な案件について、一人一人が意思表示したいという思いを、期間限定の精力的な署名活動によって県内全域に広げることにより、自分達こそが主権者であるという意識を高めることになった」。また、「知事や(住民投票条例に)反対会派も、県民の意見を聞く必要があると認めたことは成果」としており、今後の運動につなげていきたいと思います。

今後につながる県民と野党の共闘

県民投票について、当初、さまざまな意見がありました。「投票しなくても、県民多数の声は再稼働反対であり、知事と議会は早く決断すべき」というものや、「短期間で必要署名数を集めきれるのか」といった意見もありました。

私たちは何度も議論を重ね、県民投票の会とも意見交換し、会が主催する県民投票カフェに参加しました。そのなかで、「県民の意見を聴いてほしい」、「県民投票を実施してほしい」と求める多くの声が広がり、各地で党員や党議員も受任者となって署名集めにとりくみました。

県民投票条例案を審議した議会では、これまでにない共闘が生まれました。

議会常任委員会(防災環境産業委員会)で、条例案に賛成したのは私と無所属議員(中村はやと議員=中村喜四郎衆議院議員の息子)の2人。賛成少数で否決されると、中村議員が「少数意見の留保」(注)を提案し、私が賛成して成立しました。これにより最終日の本会議で中村議員が、「8万6703名の皆様の署名簿は、議会にとっても、茨城県の未来にとっても余りにも重く、絶対に無視してはなりません。この機会に議会内での勉強会や検討会を超党派でおこなっていくべきです」と意見をのべました。

県民投票条例案に賛成して挙手する江尻かな議員と中村はやと議員

県民投票条例案に賛成して挙手する江尻かな議員(真ん中の列の右端)と中村はやと議員(同左端)=茨城県議会防災環境産業委員会、2020年6月18日

また本会議では、立憲民主党の玉造順一議員も県民投票条例案に賛成討論をおこない、共産・立憲・無所属のなかで、今後につながる共闘ができたことは大事な成果です。

(注)「少数意見の留保」は、委員会採決で多数を得られなかった意見について、1名以上の出席委員の賛成があればその意見を留保し、本会議で委員長による「委員会結果報告」に次いで「少数意見報告」としてその意見を述べることができること。

中高生も署名と手紙で声を届ける

県民投票運動を通して、とくに印象に残っているのは中高生のとりくみです。
福島第一原発事故を経験して社会に関心を寄せていた女子中高生が、「U18花かんむり」というグループをつくり、自分たちで子ども署名を集めたのです。

中高生は、県議一人ひとりに直筆の手紙を郵送。そこには「私たちはまだ有権者ではありませんが、将来の有権者として思いを集め、伝えるために署名を集めることにしました。私たちには長い未来があります。議会の決断で未来を切り拓くことができるよう、県民投票の推進を願っています」と思いが込められていました。

女子中高生のグループ「U18花かんむり」から全県議に届けられた手紙

女子中高生のグループ「U18花かんむり」から全県議に届けられた手紙

友人にも署名を広げようとしていた矢先、新型コロナで突然の一斉休校。それでもめげずに、ホームページやネット署名を立ち上げて活動を続けました。集めた署名を持って県庁に行き、知事への手紙とともに担当職員に手渡しました。その勇気ある行動が、私たちを励ましてくれたことは言うまでもありません。

被災原発で再稼働の動きが活発化

いま、東日本大震災で被災した原発が、再稼働に向けて動いています。

そのひとつ、東北電力女川原発(宮城県女川町、石巻市)をめぐり、宮城県の村井嘉浩知事が11月11日、再稼働の前提となる「地元同意」を表明しました。石巻市に隣接する相澤清一・美里町長は、最後まで反対を主張しましたが「知事に届かなかった」と県の姿勢を批判しています。その美里町の避難計画には、「本計画は女川原子力発電所の再稼働を容認するものではなく、廃炉までに発生する可能性のある原子力災害に備えるためのもの」と明記されています。町は「脱原発宣言の町」を表明していますが、これも無視されたのです。

この報道を目にした茨城県民のあいだで、「女川と同じように東海第2原発の再稼働同意手続きが進んでしまうのではないか」と懸念が広がりました。そこで、私たちはすぐさま茨城県知事に「東海第2原発の再稼働に『同意』しないこと」を求める申し入れをおこないました(11月13日)。

東海第2原発と女川原発には多くの共通点があります。(1)東日本大震災で大きな被害を受けた、(2)福島第一原発と同じ沸騰水型原発(BWR)、(3)再稼働のための新規制基準適合工事が2022年12月に完了予定です。また、宮城県でも、原発再稼働を問う県民投票条例が県議会で否決され、県民の意向を問う機会が設けられていません。

一方、異なる点もあります。(1)女川原発の広域避難計画(30キロ圏内7市町・約20万人)は策定済みとされていますが、東海第2原発(30キロ圏内14市町村・約94万人)は未策定、(2)女川原発は国(経済産業大臣)から再稼働協力要請がありましたが、東海第2原発には要請なし、(3)女川原発再稼働の事前了解(同意)は宮城県と立地自治体(女川町、石巻市)だけですが、東海第2原発は「新安全協定」(2018年3月29日締結)により、茨城県と東海村の他に周辺5市(日立市、ひたちなか市、那珂市、常陸太田市、水戸市)の了解が必要とされています(図1)。

図1 日本原子力発電と協定を結ぶ6市村

女川原発再稼働の手続き強行を目の当たりにし、非現実的な避難計画(内容詳細は後述)を「策定済み」とさせないことが肝心であり、より多くの自治体が事前了解権を持つことの重要性が鮮明になったと感じました。

再稼働の「拒否権」を周辺に拡大した「茨城方式」新協定

原発再稼働の事前了解権を周辺自治体に拡大した新協定は、「茨城方式」と呼ばれ、注目されています。その足掛かりをつくったのは、前東海村長の村上達也氏でした。

村上氏は、事前了解が立地自治体だけで済んだのは「安全神話」があった時代であり、福島原発事故を踏まえた対応が必要と主張。その後、村上氏は村長を引退しましたが、2018年に「実質的に事前了解を得る仕組みとする」との文言を盛り込んだ新たな安全協定締結が実現したのです。

村上氏は、「新協定によって、再稼働の『拒否権』を隣接、隣隣接自治体の住民も手にした。県と立地自治体が独占していた原子力行政にくさびを打ち込めた」と意義を強調しています。

議会内外での議論や勉強会

東海第2原発の立地自治体や周辺自治体で、原発をめぐる議論に動きがでています。

東海村では、島根原発の地元・松江市で開かれた「自分ごと化会議」を村でも発足しようとしています。これは一般社団法人「構想日本」が推進し、「社会や政治・行政のことを『自分ごと』にする目的で、無作為に選ばれた住民が国や自治体とともに、地域の重要課題を議論する」(「自分ごと化会議」HP)というもので、松江市では原発や自然エネルギーをテーマに開催されています。しかし、東海村では会議の目的があいまいなことや講演会開催、会議メンバー選考などが、すべて役場主導でおこなわれているのではないかとの批判が出ています。

那珂市や日立市、ひたちなか市、常陸太田市は、原発事故時の避難計画に関する市民アンケートを実施。直近の那珂市がおこなった市民アンケートでは、情報提供や避難時の渋滞対策、長期の避難生活などを課題にあげる人が多かったほか、再稼働反対を訴える声もありました。

また、那珂市議会は、原発推進派と反対派の専門家から意見を聞いたり、議員間の意見交換を実施。東海第2原発の工事状況も視察しました。さらに、11月には原子力安全対策常任委員会主催の「市民の声を聴く会」を開催。市民は、「科学的な議論と情報開示を徹底して」などの意見のほか、「コロナ禍で避難計画はできない」、「避難しなくてすむように再稼働しないで」などと発言しました。委員長の市議は、「賛成よりも反対の声が多く、避難の問題や使用済み核燃料への不安を感じた」と述べ、議会として「来年(2021年)度中には再稼働への意見の方向性を出さなくてはいけないと思う」としました。

水戸市では、市長が大規模な市民意向調査をおこなっていく考えを示していますが、いまだに具体化されていません。水戸市議会は2018年6月議会で、「住民理解のない再稼働を認めないことを求める意見書」を賛成多数で可決。事前了解権をもつ自治体のなかで、再稼働反対の意見書を上げているのは水戸市議会だけですが、最大の人口を有する県都水戸市の議決は大きな意味を持ちます。

県議会の原発推進派が研究会発足

県議会でも動きがありました。県民投票条例を否決した自民党県議らが、10月に「原子力政策研究会」を発足。「超党派」と銘打ちながら共産党や立憲民主党には声がかからず、総会では原発推進派の論客である奈良林直・東京工業大特任教授を講師に招きました。共産党県議団は、「県民は開かれた場での議論を求めており、県議会に原子力に関する特別委員会を設置すべき」と考え、議長に要求しています。

県民投票の会からも県議会に要望書が提出されました。早急に東海第2原発再稼働問題調査特別委員会を設置し、県民の意思表示の方法や県民への情報提供の内容について検討することを求めています。

すべての土台は、住民主体の議論ができるかどうかです。2021年夏には、茨城県知事選挙がおこなわれます。現職の大井川知事は、「住民の声を聴いて判断する」と言いながら、県民投票に賛成を表明せずに条例案否決を黙認、直接請求を黙殺しました。
これまでの運動でつくられた県民意識の高まりや、議会での共闘を県政転換の力にしていきたいと思います。

原発リスク明らかにする議会論戦

日本共産党茨城県議団は、議会での論戦を通して、東海第2原発の危険性を具体的に示し、再稼働反対の決断を知事に迫っています。

行き詰まる約94万人広域避難計画

その一つが、広域避難計画です。そもそも東海第2原発から30キロ圏内には県都水戸市(約27万人)の全域も含まれ、約94万人が暮らしています。そのすべてを避難させる計画は策定自体が困難で、たとえ策定したとしても実行不可能なものとならざるを得ません。また、原発から半径30キロで線引きすることも大きな誤りです。

一方で、国も県も「再稼働の有無に関わらず、避難計画の策定は必要」として、市町村に計画策定を押し付けています。原発が稼働していなくても、原子炉建屋内の使用済み燃料プールには核燃料が入っており過酷事故の危険性がある以上、避難計画は必要です。

この点に関して、使用済み核燃料をプールでなく乾式キャスクに貯蔵すれば、リスクは格段に低減されることが指摘されています。
政府も「使用済燃料対策に関するアクションプラン(2015年)」により、キャスク貯蔵の導入を支援するとしていますが、東海第2原発はこの間まったくキャスク貯蔵を増やしていません。すべての使用済燃料を貯蔵するにはキャスクの増設が必要です。

また、改定された国の「原子力災害対策指針」では、原子炉が廃止措置計画の認可を受け、かつ、全ての燃料体が乾式キャスクに貯蔵されれば、避難計画そのものが必要ないとしています。

安全対策と言うなら、一刻も早く廃炉を決め、プールの燃料を乾式キャスクに移すべきです。なお、原発の稼働・延命に向けて燃料プールに空きをつくるためキャスク貯蔵を利用しようという動きもありますが、これは安全対策とはまったく逆行するものです。

被ばく防護と感染症対策は両立しない

また、避難計画策定において国と県はことさら「屋内退避」を強調しますが、2020年3月に内閣府と日本原子力研究開発機構が公表した報告(「原子力災害発生時の防護措置─放射線防護対策が講じられた施設等への屋内退避─について」)によると、古い木造住宅など気密性が低い建物では、内部被ばくの低減はほとんど期待できないと思われます。そのうえ、新型コロナウイルス等の感染症対策を踏まえれば、避難計画が成り立たないことは明らかです。

共産党の山中たい子県議は6月議会で、「原発事故の屋内退避では窓を閉めろと言い、感染防止では窓を開けて換気と言う。まったく矛盾する」と指摘。これに対し、知事も「原子力災害時の防護措置と感染症対策の両立は困難なテーマだ」と繰り返し答えました。

住民避難に関しては、東海第2原発の運転差し止めを求める裁判でも、専門家から問題点が指摘されています。とくに、環境経済研究所代表の上岡直見氏の意見書が、放射線の影響や人口分布、道路・渋滞の支障、避難時間と避難距離、バス台数や給油所の制約などについて詳細に論じ、避難の困難性を鋭く示しています。

水戸地裁における裁判は結審し、2021年3月18日が判決言い渡し(予定)です。

風評被害ですまない汚染水の海洋放出

福島第一原発汚染水の海洋放出に対して、茨城県内でも反対の声が上がっています。

当初、茨城県知事も「海洋放出ありきの案は容認できない」と断言。漁業者とともに県庁内でシュプレヒコールをあげました。
ところが、東海第2原発でもトリチウム汚染水を放出していることが指摘されると、一気にトーンダウン。議会答弁では「福島の海洋放出に反対したのであり、それ以上でもそれ以下でもない」と、東海第2原発への言及を避けました。

さらに10月になると、「海洋放出の容認も視野に入る」と会見。共産党は「県民への裏切りだ」と抗議しました。県内の漁協と懇談したさいに、漁業者から「福島原発事故の風評被害からようやく平常に戻ってきたのに、汚染水を海に放流されたら漁協がつぶれる」と訴えがありました。

福島第1原発事故で、茨城県の農林水産業は甚大な被害を受けました。最大42品目が国の出荷制限を受け、現在でも、しいたけなどの特用林産物5品目、魚介類2品目、イノシシの計8品目が出荷できません。また、中国や韓国、台湾などでは茨城県産農林水産物や食品に対する輸入規制が続いています。

原発事故は、風評被害ではなく実害として農林水産業者を苦しめているのです。

運転時は180倍のトリチウム汚染水

東海第2原発のトリチウム汚染水について、共産党の質問に対し、知事は「燃料プール水の浄化や機器点検時の廃液のほか、管理区域内で着用した服の洗濯廃液、原子炉建屋内での結露等に伴う雑廃液などであり、温排水で希釈して放出している」と説明。その排水に含まれるトリチウムは、運転停止中で年間約47億ベクレル、運転中は8,600億ベクレルだったと答弁しました。再稼働すれば、停止中の180倍のトリチウムが放出されることになりますが、県は「基準値以下なので安全」としています。

その排水を砂浜に垂れ流しているのは、全国の原発のなかで東海第2原発だけということも明らかになりました(図2)。

図2 東海第2原発の取水口・排水口

ところが、県放射線監視委員会はその砂浜の放射能測定を2月に取り止めました。海岸浸食により排水口近辺の砂採取が困難になったことを理由にしていますが、共産党の現地調査で広い砂浜が残っていることも判明しました。

東海第2原発周辺で地震が多発

日本原電が所有する原発は全部で4基。そのうち、敦賀原発1号機(福井県)と東海原発(茨城県)は廃炉作業中です。残る敦賀原発2号機は、原子炉建屋直下に活断層があるとされ、活断層が認定されると再稼働できません。そのため、日本原電は「活断層ではない」と主張していますが、原子力規制委員会に提出した地質データを無断で書き換えていたことが判明し、大問題となっています。

東海第2原発についても、日本原電は「原発敷地には将来活動する可能性のある断層等が認められないことを確認した」と報告し、原子力規制員会もこれを認めています。

しかし、党県議団が気象庁震源データ等をもとに調べたところ、原発敷地や周辺で地震が多発していることが分かりました。

東日本大震災の翌年、2012年12月~2020年10月までに発生した震源データ(SPEEDI環境放射線モニタリングポスト・原子力関連施設マップ/北本朝展・国立情報学研究所)をみると、東海第2原発が最多で235回、続いて女川原発196回、福島第2原発154回、福島第1原発69回、伊方原発34回…と続きます。いずれも原発から緯度・経度ともに0.2度以内の地震を検索したものです。

茨城県は、共産党の指摘や県民意見を踏まえ、県独自の安全性検証作業において、「発電所直下などでの太平洋プレート内地震など地震対策に関する評価」をおこなうとしました。

地震の問題では、東海第2原発の基準地震動を1,009ガルとしたことに対して、知見が浅い地震について大きな余裕を持った評価をしていないとの批判もあります。

被害規模を想定しない国と事業所

東海第2原発の再稼働をめざす日本原電は、この9年間、1ワット時も発電していないのに破産しない会社です。日本で最初に原発を始めようとした時、国と大手電力会社がつくった「国策会社」であり、電力会社が基本料金を拠出。再稼働についても、東京電力と東北電力が総額3,500億円(非公表)を資金支援するとしています。

自己資金のない日本原電に、過酷事故時の賠償能力がないことは明らかですが、被害規模の試算さえしていません。

共産党は政府に対し、東海第2原発で過酷事故が起きた場合、どれくらいの被害規模になるのか試算を要求。しかし、内閣府原子力防災担当の回答は、「世界最高水準の規制基準で安全対策を講じるので、試算をおこなう考えはない」というものでした。国際原子力機関(IAEA)でさえ、「原発の立地検討に際し、周辺地域の人口、資産などについて評価すべし」としているにもかかわらず、日本政府は評価基準も示していないのです。

この問題について、上岡直見氏(環境経済研究所代表)が経済的影響を試算しています。東海第2原発の30キロ圏内に限定しても、消費・生産活動で6兆5220億円・県内GDPの半分が失われ、雇用喪失は67万人にのぼります。一方、再稼働によるGDPへの貢献は660億円で、雇用創出は3,700人程度と試算し、「再稼働は考慮に値しない愚策」と厳しく指摘しています(岩波書店『世界』2018年10月号)。

試算を30キロ圏内に限定せず首都圏にまで広げれば、経済的影響はもとより、放射能による人体や環境への影響は計り知れません。首都東京までわずか120キロメートルの距離です。過酷事故が起きれば、“日本が破滅する”といっても過言でありません。

石炭火発・太陽光・核融合の課題

茨城県は、原子力発電以外にも多くのエネルギー問題を抱えています。

二酸化炭素を大量に排出する石炭火力発電所が、県内で5基稼働中です。東日本大震災直後の2012年に、常陸那珂火力発電所2号機(百万キロワット・JERA)が稼働し、直近では2020年7月に鹿島火力発電所2号機(64.5万キロワット、鹿島パワー)が運転開始。さらに、常陸那珂火力発電所で新規火発(65万キロワット)が2021年早々に稼働予定です。

燃やした石炭の灰は海に捨てられ、石炭灰の埋め立てで港用地を整備する茨城県は、電力会社と「ウィンウィンの関係」とし、常陸那珂港建設(6,800億円)を推進しています。時代に逆行する石炭火発の増設と大型公共事業は中止すべきです。

一方で、茨城県は全国一の太陽光発電設備導入量を有しています。その合計は300万キロワットを超えました。しかし、大規模なメガソーラー(1,000キロワット以上)の占める割合が4割超と高く、メガソーラー認可件数は757件(2020年7月現在)。そのうち75%を県外事業者(東京都が46%)が占めています。

設置による土砂流出や生活環境・景観への悪影響のほか、敷地内に残土不法投棄も確認されるなど、不適切な設置が問題となっています。これに対し、県の太陽光発電ガイドラインや市町村の条例を実効性あるものに改善し、太陽光発電の適切な普及を促進することが求められています。

さらに、茨城県には、将来の発電をめざす核融合実験施設もあります。量子科学技術研究開発機構の那珂核融合実験炉「JT-60SA」(那珂市)が、初のプラズマ着火を開始しようとしています。これは国際的な「ITER計画」の一環として、数千億円に上る巨額の国家予算が投じられます。核融合技術は原発とは大きく異なるものですが、地元からは核エネルギー利用に対する安全性についての懸念も出されています。またこれまでの経過や実績をふまえると、エネルギー利用の実用化が期待できるものとは考えられません。

どんなエネルギーも、その選択肢は国民にあるべきです。国会は11月に、地球温暖化対策にとりくむ決意を示すため、「気候非常事態宣言決議」を全会一致で採択しました。「脱炭素」という人類的課題に正面からとりくみ、同時に国民世論が求める「脱原発」を実現するためには、すでに日本共産党を含む野党共同で提出されている原発ゼロ基本法案と再エネ推進法案の実現が不可欠です。市民と野党の共同をさらに前進させ、野党連合政権を市民とともにつくりましょう。

「議会と自治体」2021年1月号「東海第2原発は民意に沿って廃炉に」(PDF)